灰になった③

  


翌日20日、この日は朝から葬式、火葬、納骨と1日かけて忙しい日だった。朝9時に葬儀屋が家に来て、最期のお別れの儀式をすると言った。葬儀屋が進行する通りに死に装束を纏わせたり、棺桶にお土産、花を入れたりしたが、祖父の遺体を目の前に、最期のお別れを言ってあげて下さい、と言われると、嗚咽が止まらないほど泣いてしまい、声に出して別れを言うことはできなかった。喪主は祖母だが、高齢なため葬儀や祖父の介護などほぼ母が取り仕切り、気丈にふるまっていた母が、祖父の手をとって嗚咽を漏らし泣いている姿を見て、本当にこれで祖父に触れるのは最後なんだと苦しかった。


儀式を終え、祖父と祖母、母を乗せた車は葬式の会場に向かう。私は険悪だと思っていた兄と2人で、久々に普通に会話を交わしながら、穏やかな空気で会場に向かった。

葬式にはたくさんの人が来て、予定通り進められた。喪主の挨拶は兄が勤め、涙をこらえながらはっきりしっかりと締めてくれた。その後火葬場へ向かった。 

 
祖父を火葬した時、私はとても複雑な気持ちだった。

火葬場は広くて綺麗でハイテクな感じだった。焼香をし、火葬する厚い扉に入れられる祖父を見ているのはとても辛かった。簡単には開きそうにない扉が重たい音を立てて閉まる瞬間に、祖父と本当の別れが訪れた気がした。そんな熱い火でじいちゃんを焼くの?やめて焼かないでと心の中で何度も思った。

火葬のスイッチを押すのは喪主である祖母の役目だった。しかし、スイッチを押して下さいと言われた祖母は泣きながら、そんなことできない、と言った。結局、母と一緒に震える手でスイッチを押し、少しすると厚い扉の奥からガコンガコンという音がした。最近の火葬場はハイテクで、煙やにおいがしたり、大きな音が出るようなこともなく、控え室で軽食をとりながら終わるのを待った。

火葬が終わると今度は骨を拾い骨壷へ移す。2時間前まで眠ったような綺麗な顔をしていた祖父は、かすかに人の形をしているぼろぼろの白い灰になっていた。灰になった祖父を箸でひとつずつ拾った。時々目に映る遺影の祖父を見て、灰になった祖父の骨を拾っていると、複雑な気持ちでいっぱいになった。これはじいちゃんなの?こんなのはただの白い灰だ、と思った。ぼーっと骨を拾いながら、うちの家族はみんな箸の持ち方が綺麗だな、箸の持ち方が間違ってる人は大切な家族の骨を拾う時に恥ずかしいと思うのかな、とか考えながら納骨を終えた。


その後は親族で墓に向かい、建て替えたばかりの墓を開けて、その中に祖父の骨壷を入れた。




そして翌日は昼まで寝て、午後から母とお寺で四十九日までの打ち合わせをした。

そして金曜に沖縄へ帰り、GWにまた戻る。

出来ればこのまましばらく家族と一緒にこの家にいたい。ゆっくり遺品の整理をしながらじいちゃんの話をしたい。でもみんな忙しい日常にのまれて、時々忘れながら、時々思い出しながら、ゆっくり受け入れていくものなのかな。悲しみ続けるわけにもいかない。私には現実と日常が待っている。



小学校から帰ると、自分で焼いたパンを食べさせてくれたり、私の好きなお菓子をいつも戸棚に入れててくれたり、一眼レフで1番良い位置で運動会や発表会の写真を撮ってくれたり、笑ってる優しい記憶しか思い出せない。

きっと私にとってはその姿が私の祖父であって、骨壷に入った白い灰はもう祖父ではない。祖父は灰になった。今は記憶の中に生きている。